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内部監査部門と監査役の協力関係

内部監査部門と監査役(または監査等委員会メンバー)は協力すべきだ。内部監査と監査役監査は、対象や目的は異なるが、活動や情報が重複する部分があり、効率と効果の観点から、協力することが期待される。そのために、たとえば毎月あるいは必要都度、情報共有のための会合を開催する。そのとき、内部監査部門から監査役へと同じぐらいの情報量を、監査役から内部監査部門へ提供すると、内部監査部門の監査が経営層の関心に合ってくる。

内部監査には国際基準があり、公認内部監査人(CIA)などの制度もある。一方、監査役には監査役監査基準はあるが、認定制度等はない。内部監査人も皆が国際基準に精通しているわけではないが、監査役はそれ以上に能力や考え方のバラツキがあるだろう。ただし、株主に対する責任が、真摯さの支えになっている。社内での立場は監査役が一段上になるが、協力関係においては対等でありたい。

会社法に基づき、監査役は取締役の業務執行を監査する。取締役の業務執行はコーポレート・ガバナンスが中核である。ガバナンス体制は全社に及ぶが、少人数の監査役が全社をくまなく見ることは不可能なので、内部監査部門の監査結果に頼ることになる。そういう意味で、内部監査部門は監査役の能力を補うことを期待されていると考えられる。内部監査部門は監査役の手下ではなく、対等だ。

よほどの大企業でなければ、監査役にスタッフはいないので、監査役が内部監査部門に監査役監査の記録係などを依頼することがある。メンバーが複数いる内部監査部門であれば、メンバーに対応させることで、さして支障はないし、教育的効果もありそうだ。一方、内部監査部門が部門長だけのときは部門長が監査役監査に同席することになる。内部監査部門長が監査役の手下のようで、これはまずいだろう。

内部監査部門長の人事には監査役が関与すべきではないか、という議論があるそうだ。これは、一般には無理があると思う。監査役には、次の内部監査部門長に相応しい者を探す手段がない。ただし、内部監査部門長が相応しい者か否かを評価することは、一定の期間を経れば可能だろう。内部監査部門長が相応しい者ではないと判断したときに意見を言うのは、監査役の通常の役割の範囲である。

内部監査部門は社長直轄が基本だ。社長の目となって、社内各部署の内部統制を評価するのだ。一方、社長は取締役の一人として監査役に監督される立場である。社長にとって、監査役と内部監査部門が連携することはあまり気分の良いものではないのかもしれない。
私の経験の範囲では、社長の直轄でありながら、社長が監査に注文を付けることはほぼなく、対社長と対監査役は等距離の関係でいられた気がする。
(ブログ 2024/12/8~2024/12/13)

2025年05月02日

小林製薬の紅麹原料による健康被害

 小林製薬の紅麹原料による健康被害の問題について振り返る。
 紅麹関連製品による重篤な健康被害の報告は、一件目を受けてから20日も経たずに6件になり、うち4件は医師からだった。社長は、普段にくらべて異常に多い情報の報告を受け、幹部の会議では回収・終売の可能性に言及したという。なのに、消費者への注意喚起や行政への報告はその後一ヶ月以上されなかった。メーカが消費者の視点を持っていないと、こんなことが起こり得る。
 健康被害の情報を最初に受けてから、その情報開示や製品回収開始までに2か月以上がかかった。その間に、月次の取締役会が開催されているが、この件を議論していないようだ。社外取締役がこの問題に関するレポートを読んだのは、情報開示の前日だったという。問題は、取締役会長も社長も多くの経営幹部も知っていたのに、取締役会で話題しなかった。
 この2か月以上の間に彼らがしていたのは原因究明である。問題の製品ロットを絞り込み、原料のロットを突き止め、それに意図しない成分が含まれていたことが判明し、ようやく情報開示と製品回収を決断した。それよりも、健康被害の拡大防止が先だろうと部外者は思う。部外者の感覚を経営に持ち込む役割が社外取締役だ。だから、取締役会での議論は大事なのだ。
 健康被害拡大より原因調査を優先したのは、行政への報告は「因果関係が明確な場合に限る」という方針を採ったからだ。消費者庁のガイドラインにあいまいなところがあるとして、安全管理部が消費者庁のガイドラインを読み解いて得た解釈だという。そうであれば消費者庁に確認すべきだった。この解釈が独り歩きし、健康被害の拡大防止より原因究明を優先する行動へとつながった。この文言は規程等にはないが、これを社内で何度も確認したのに、なぜか誰も疑問を言わず、相談した弁護士も妥当という意見だった。同一製品で問題が連続したら、原因は不明でも因果関係は明白だ。
 危機管理規程には、重大な製品事故等があったときに危機管理本部を設置することが定められている。紅麹原料による健康被害が続いた時点で、原因不明であっても重大な製品事故には違いないはずだ。危機管理本部で集中的に検討すれば、判断は早くなったはずだ。
 製薬会社には信頼性保証本部が必須の機能として設置され、その役割はビジネスを推進する事業部(製造部門・販売部門)に対して、製品の品質と安全性を担保する観点からのブレーキである。ところが、議事録等を見ると、信頼性保証本部が行政への報告等に関して業績への影響を考えたことが分かる。役割を果たして事業部と喧嘩していれば、社長の判断は違ったかもしれない。
(ブログ 2024/11/27~2024/12/4)

2025年04月24日

多数の指摘がある通報文書をどう扱うべきか

兵庫県知事のパワハラを第三者委員会が認定というニュースの件。最初の文書での指摘は7件もあって、パワハラは7つの最後の1件だった。この種の文書は重要なことから書くものだから、通報者にはパワハラの問題よりも他の6つのほうが重要なのだろう。その6つが事実ではなく、または問題ではなく、しかも通報を内部通報窓口で受けてないのだから、誹謗中傷だと決めつけてしまうことはどこにでも起こり得る。他山の石とすべきだ。

2025年04月02日