SCORモデルをご記憶だろうか。業務プロセスの参照モデルであり、サプライチェーンマネジメントのツールとして1990年代後半に登場した。当時、これから必須の知識になると私は思ったが、日本では、その後の10年ほどで忘れ去られてしまったようだ。一方、欧米では引き続き研究が進んだと聞いた。ERPベンダが「ベストプラクティス」と表現したものは、SCORモデルが由来だと思う。そのSCORモデルのJ-SOXへの利用について考える。
※SCOR model:Supply Chain Operations Reference modelであり、APICS supply chain
councilが提唱したサプライチェーンプロセスの参照モデル。
※J-SOX:ここでは、金融商品取引法で上場企業に課されている内部統制報告制度に対応する、企業の一連の活動。
J-SOXにおいて、業務処理統制の状況は、業務フロー、業務記述書、RCMの三文書で表現し、業務を可視化する必要がある。その文書を作成するために、文書作成者は業務担当者から手順を聞き取るのだが、その時に参照モデルと照らし合わせながら進めると、聞き取りの効率は格段に上がる。参照モデルには通常必要な手順が網羅されているので、文書作成者は聞く前に手順を想定し、業務担当者の説明を聞き漏らさずに済む。
仮に、業務担当者の説明する手順を文書作成者が聞き取ったまま文書化すると、業務のバリエーションと説明のバリエーションが掛け合わさって、文書は千差万別になる。その状態で、他のプロセスと効率を比較し、あるいは他の良い点を取り入れることは難しい。一方、参照モデルに沿って手順をまとめると、その表現や粗さが整うので、他のプロセスと比較し、あるいは良い点を取り入れることが可能になる。
SCORモデルがなくても、自社の既存プロセスがあれば、それを参照モデルとする方法もある。ところが、実在する既存プロセスは業務特性に応じて合理化され、たとえばプロセスの一部が省かれている。それを元にして別のプロセスを可視化すると、省かれた部分の検討が漏れる。その分だけ手直し・手戻りが増え、時間が掛かる。標準的なプロセスを網羅したモデルのほうが、短時間でよい結果に至る。
SCORモデルを使わないと、文書作成者が業務担当者から手順を聞き取るときの効率が悪い。その結果はどうなるだろうか。手順を聞き洩らすと、統制が弱いように見えてしまう。統制を補うために手順を追加してしまい、業務の負荷は増える。今まで業務のミスが問題になっていないのに、J-SOX対応により業務の負荷が増えたとしたら、こんなことが想定される。その場合、聞き洩らしていた統制を文書化するだけで業務を効率化できる。
SCORモデルには懸念もある。J-SOXへの利用という目的に対して、SCORモデルは重過ぎる。J-SOXは財務報告の信頼性向上が目的であるが、SCORモデルは通常想定される管理を網羅している。故に、J-SOXのためだけにSCORモデルを導入することはお勧めしない。新規事業の業務設計やERP導入を主目的としてSCORモデルを導入し、ついでにJ-SOXにも使うぐらいがよさそうだ。
あるいは、SCORを導入せずに利用だけすることもできる。SCORを知る人、たとえば情報システム部員やコンサルタントに、J-SOXの整備・文書化を手伝ってもらうのだ。
(ブログ 2025/5/2~2025/6/2)
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